『うつ病とトラウマの関係』
NHKのクローズアップ現代で、「トラウマ治療の最前線」が放送されていました。それによると、うつ病や身体の不調、問題行動は、トラウマと深く関係しているようです。
トラウマとは、心的外傷のこと。強いショック体験が、深い心の傷となってしまいます。しかも、トラウマに関する記憶は、海馬とは別の場所に保管されるらしい。
あまりにつらい体験は、心に大ダメージを与えかねないので、普通の記憶とは違った場所に保管されるようです。まともに思い出すと、心が引き裂かれてしまう。なので、心を保護する目的で、認知しにくくなっているのかもしれません。
けれど、それはまったく忘れ去られるわけでも、消えてなくなるわけでもない。何かをきっかけに ふっと顔を出し、影響を与えてきます。さらにそれが、自己否定やマイナスイメージにつながり、その反応として、気分が落ち込んでしまう。
<認知行動療法>は、そんな認知の歪みを修正しようという試み。悪い悪いと思ってきたけど、実はそんなに悪くないとか。ダメだダメだと思ってきたけど、実はそんなにダメじゃないとか。思い込みと現実のギャップに気づき、その溝を埋めていきます。
患者さんは、気分の落ち込みや不安、体調不良などを主訴として、病院などを受診します。けれど、その原因は、主訴とは離れたところにある場合があると。
例えば、幼い日に受けた虐待が ―― 虐待に似た行為が ―― 現在に影響を与えている場合もあるのです。
虐待は直接的に考えても、心身にダメージを与えます。けれど、それだけではなく、虐待が生んだ考え方でも、ダメージを与えるようです。
例えば、『毒になる親』で学んできたように、親にひどいことをされた子どもは、親をひどいとは思わずに、自分を責める傾向がある。自分が悪いと思い込んでしまいます。
客観的に見れば「その子は悪くない」のは明らかなのですが、自分が悪いと長きに渡って信じることで、心身に影響が出てくるわけですね。実際はそうではなくても、思うだけで、気分は落ち込むのです。
また、『嫌な気分よさようなら』では、認知の歪みが、気分の落ち込みや体調不良を生むことを学びました。実際はそうでなくても、自分はダメだと信じ込めば、陰鬱な気分になるのです。悪いことを拡大して見る癖がつけば、世の中は暗黒だと思え、その反応として、気分は落ち込む。
<認知行動療法>は、思い込みと現実のギャップに気づき、修正していこうというもの。
「ダメだダメだと思っていたけど、本当はそうではなかった」とか。「自分が悪いと責め続けていたけど、そうではなかった」とか。誤った認識を、より客観的なものへと、修正していきます。
ダメだと思うから、落ち込む。悪いと思うから、胸が締め付けられる。
なので、気分を変えようとするのではなく、気分の原因となっている思考パターンを修正することで、結果として、気分や体調がバランスを取り戻していきます。
トラウマ処理の場合、保護された場所で臨床心理士などと共に、認識できなかったトラウマ記憶に触れる作業がなされます。奥にしまわれた記憶にアプローチし、そこにある処理されてなかった感情を、だんだんと処理していく。
感情というのは外に出さない限り消えないので、言葉にしたり、泣いたり、吐露したりと、そうやって処理する。溜まって渦巻いていたものを、少しずつ外に出していくんですね。
けれど、これには問題があって、患者さんの負担が大きい。もともと、うかつに思い出すと大ダメージを受けるから別の場所に保管されているようなものですからね。
・触れるのは難しい。
・けれど、処理しない限りは消えない。
この2つがいえるようです。
そんな中、「EMDR」という方法が、注目を浴びています。クローズアップ現代によると、WHO(世界保健機関)も EMDRが患者の負担が最も少ないトラウマ治療の方法だとして、推奨しているのだとか。
EMDRとは、Eye Movement Desensitization and Reprocessing の略。眼球運動による脱感作と再処理法のことです。
患者は、頭を動かさない状態で、セラピストが左右に動かす指を目で追います。そうしながら、トラウマとなっている記憶を思い出す。
トラウマ記憶に触れる時、感情を司る右脳は興奮状態になります。一方、記憶を処理する左脳の活動は低下する。感情的には興奮するのだけれど、詳細を思い出すのはつらいので、記憶処理は低下するようです。
この脳のアンバランスさが、心身に影響を与えているらしい。
けれど、目を交互左右に動かすことで、脳に左右交互の刺激が与えられると、右脳では興奮状態が和らぎ、左脳では機能低下が和らぐのだそう。
なぜ、EMDRは効くのか? その詳細はまだ、解明されてないようです。けれど、治療に効果があるので、大いに期待されているらしい。
人は悩みや問題があると、そこにばかり注目しがちです。
しかし、悩みや問題を生んでいるのは、その奥にあるものかもしれないのです。
また、現在の悩みや問題も、実は、過去の体験が生んでいるのかもしれない。
さらには、目の前に起こっているそれは、目の前ではない別の場所、別の時間と、つながっているのかもしれないわけですね。
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