『うつ病の原因と対処』
NHKで、うつ病に関する番組が放送されました。
NHKスペシャル 病の起源 第3集「うつ病 〜防衛本能がもたらす宿命〜」。
その中で、うつ病のメカニズムが解説された。
今回注目されたのは、脳の中の「扁桃体(へんとうたい)」という部分。
強い不安や恐怖などが続くと、扁桃体が活動。全身に、ストレスホルモンを分泌します。このストレスホルモンが脳に達すると、神経細胞がダメージを受け、結果、脳が委縮するのだという。これにより、意欲や行動が低下し、うつ状態になってしまう。
このことからも、うつ病の引き金が、強い不安や恐怖などのストレスであることが分かります。それも、長期間続くのが問題になる。
番組の後半では、脳に電極を埋め込む「脳深部刺激(DBS)」という治療法が紹介されていました。これは脳に直接刺激を与え、扁桃体の働きを正常化させようとするものです。
しかし、これを見ていて、実は疑問に思った。
扁桃体が過剰に活動してしまうにはそれなりの原因があるはず。なので、その原因を取り除かないまま対処するだけでいいのだろうか? そう思ったのです。うつ病になるということは、扁桃体が活動してしまうだけの状況があるはず。それは手つかずでいいのだろうか? と。
[前提]
扁桃体が働くだけの、何らかのストレスがある。
[対処]
(a) 薬や手術などで、扁桃体の活動を正常化させる。
(b) 扁桃体が過剰に働かないように、状況や考え方を変える。
DBSは、(a)ですね。投薬治療も、(a)に入るのでしょう。
それはそれで意味があると思うのですが、ここでは(b)について考えてみたいと思います。
<うつ病とストレス>
上で紹介したように、うつ病と扁桃体は関係しているようです。その扁桃体を活動させるのが、不安や恐怖などのストレス。したがって、うつ状態を脱するには、それが無いような状況を作ればいいことになります。
番組では、魚が天敵の前にさらされる、という例が紹介されていました。では、現代人の場合だと、どうなるでしょうか?
例(1) 毎日、ダメ出しされる。
親、教師、上司などから、毎日、叱責される。ダメだと言われる。否定される。これらが続くと、やがては、うつ状態になりそうです。
これは、失敗が人格否定とイコールになってしまっているから。本当はダメなのは失敗したことだけなのですが、まるで人間全体がダメであるかのような事実誤認が生じてしまいます。
おまえの全体がダメだと言われれば、誰だってうつになるでしょう。
例(2) 毎日、自分は何てダメなんだと思う。
人から言われるだけでなく、自分でそう思う場合もあるでしょう。毎日、自分を責め、否定してしまう。
これも、上と同じ、人間全体を否定してしまう事実誤認があります。と同時に、本当にダメなのか? という疑問も生じる。案外、第三者から見れば、全然ダメじゃなかったりします。また、仮に部分的にダメであったとしても、全体がダメだというわけではないのです。
例(3) 毎日、暴力にさらされる。
いわゆる、虐待ですね。これには、言葉による虐待も含まれます。イジメなんかも、そう。
痛み、不安、恐怖。これらが長期に及べば、誰だって、どうにかなってしまいます。問題は、それが当たり前になってしまうこと。
例(4) 過労状態になってる。
気づかないまま、心身が疲弊し、悲鳴を上げている状態。これは、ある程度気づいている場合と気づいてない場合、両方がありそうです。たとえ気づいていても、休めない事情があったりとか。
一時的にたいへんなのなら、休めば回復します。けれど、いつもいつも忙しくて休めず、回復する時間もないと、身も心もどうにかなってしまいそうです。
<記憶との関係>
扁桃体は、記憶とも関係するのだという。つらい経験などを何度も思い出すことで、扁桃体は活動、ストレスホルモンを分泌するのです。ということは、「現在そうされている」というだけでなく、「過去にそうされた」ことも、うつ症状と関係しそうです。
現在は、特に問題ない生活をしている。周囲もそう感じるし、本人だってそう思う。そのような状況でも、過去の出来事を思い出すことで、うつ病になり得るわけです。
この辺の不可解さは、コンプレックスの性質にも似ていますね。(「コンプレックスとは?│スマホ版」)
こういう時間差の罠があるので、本人は気づかぬまま、うつ病になってしまう可能性がある。
過去に つらいことがあった。
↓
どうしても、それを思い出してしまう。
↓
それが扁桃体を活動させ、ストレスホルモンが分泌される。
↓
これが脳の委縮を招き、うつ状態に。
こんなケースでは、目の前にはストレス源がない為、気づきにくい。
不可解なまま、うつ病になってしまいます。
<対応>
うつ病の原因が 長期間にわたりストレスにさらされることであるとするなら、対応策も見えてきそうです。単純に考えれば、ストレスから遠ざかればいい。
とはいえ、そうそう単純でないのも事実。「離れられればいいけど 離れるわけにもいかない」、そういった状況も、多々ありそうです。ただ、そんな中にも、「離れられないと思い込んでいるだけで、実は離れられる」というのも、あるかもしれない。
仕事や学校等の場合、「離れるわけにはいかない」と思う面が強いかもしれません。性格が真面目なほど、その傾向は強いでしょうか。
それとは別に、場所を離れただけではストレスが消えないケースもありそう。というのは、自分の態度や言動が問題を生み、それはあまり意識されないのだけれど、やはり罪悪感のようなものを感じ、それがストレスになっている、そんなケースがある。
このようなケースでは、態度や行動、言動や考え方など、もっと言えば、自分の生き方を変えない限りストレスは消えなさそうです。
ストレスは、周囲から与えられている場合と、自分で生み出している場合、両方が絡み合っているようです。また、事実誤認から、本来ないはずのストレスを生み出してしまっているようなケースだってあります。
思い込みがストレスを生み出している場合は、環境を変えても、どうにもならないかもしれません。なぜなら、思い込みだけあって、その元は思いの中にあるから。
したがって、このようなケースでは、「思い」の方を変えねばなりません。そう思っていることと現実にはギャップがあるんだと、少しずつ認識し、修正する必要が出てくる。
以上のようなことを前提としながら、上で挙げた例に照らし合わせてみましょうか。
例(1) 毎日、ダメ出しされる。
否定され続けることが問題なわけだから、ダメ出しされないような状況にすればいいということになります。(あくまで、「単純に考えれば」ですが)
(1-a) ミスを繰り返すなど、自分に問題がある場合。
→ 確認することで解消されることなら、確認する。同じミスを繰り返さないように、チェックリストを作るなど、工夫をする。ちょっと手間をかけることで、改善できることがあります。
(1-b) 明らかに無理な課題を出されている場合。
→ どう考えてもできそうにないことを要求され叱られるのは、ご勘弁。この辺のギャップも、修正できるなら修正した方がよさそう。ただ、相手の「聞く耳」という問題があります。
(1-c) 相手が何にでもダメ出しする人である場合。
→ これは、こっちではどうにもできないことです。修正が必要なのは、相手ということになる。なので、第三者に相談するとか、場合によっては、その人から離れることも、考えた方がいいかも。
これら3つは、それぞれ単独であるだけでなく、複雑に絡み合っているケースも多そうですね。しかも、人間関係の中で生じるので、難しい。
難しいのだけれど、「ダメ出しされ続けると、人間はどうにかなってしまう」という事実があります。これを前提に、どうするかってところですね。こんな状況が続けば、人間が傷んでしまう。
あと、「愚痴が言えるか?」というのも、実は大切な要素かも。言葉にすることで感情を外に出せるし、仲間と愚痴を言い合うことで、問題を共有できます。つまり、ひとりで背負っていた負荷を分け合い、ちょっとは軽減できると。
例(2) 毎日、自分は何てダメなんだと思う。
こちらは、自分で否定してしまうケース。
(2-a) 実際に問題がある場合。
ミスを繰り返す、人を傷つけることを言うなど、やってしまった後で、毎度毎度、後悔してしまう。
→ 繰り返さないことが、肝要。繰り返さない工夫を。
(2-b) 実際には問題がない場合。
自己評価が低く、いちいち自分の行動を問題視してしまい、落ち込んでしまうようなケース。
→ 現実と思い込みのギャップを認識し、溝を埋める。(参考:「嫌な気分よ さようなら」)
例(3) 毎日、暴力にさらされる。
(3-a) 現在も継続している場合。
→ 保護が必要です。声を上げ、助けを求める方がいい。
(3-b) 現在は無いが、過去にそうであった場合。
→ 前述のとおり、繰り返し思い出すことでも、脳に影響が出ます。この場合は、カウンセリングなどの治療を。
問題は、それとは分かりづらいケース。本人は意識してないけど、暴力や虐待にさらされている場合があります。狭い範囲で日常化してしまうと、問題であることに気づけないことがある。
そういう意味では、「周囲の目」という要素も、考えないといけないのかも。
例(4) 過労状態になってる。
これはもう、ともかく休まないと。人間がどうにかなってしまいます。
「そんなのは甘い!」と言う人がいるかもしれませんが、そういう人はそういう考え方に甘えて、人間を傷つけているわけです。また、自分で自分を追い詰めている場合と、周囲に追い詰められている場合、そして、制度に追い詰められている場合、等がありそうです。日本だと、空気にやられている、といったケースも考えられそう。
例(5) 過干渉。
度の過ぎた干渉も、ストレスになりそう。ただ、干渉されていることを、する方もされる方も、意識できてないことがあります。
人間は自然な状態なら問題なく育つ。多少何かあっても、回復することだって、できます。ただ、不自然さに長期間さらされると、どうにかなってしまう。ストレスが蓄積してしまいそうです。
<平等と不平等>
番組では、「ハッザ」という人々が紹介されていました。彼らは狩猟採集で生活しており、肉をみんなで切り分けるなど、「平等」な暮らしをしている。また、壁がないので、人間同士の関わり合いが深いようです。
ハッザの人々は孤立とは無縁で、うつ病になる人もいない。平等であることが、扁桃体を活動させず、よって、脳に悪い影響を受けません。
うつ病にならないためには、以下のような要素を取り込むのがよいようです。
(α) 平等
これはいわば、お互い様の精神。互いに分け合い、ある時は与え、ある時はいただく。このような状態が、脳を安定させてくれるようです。
(β) 人との関わり合い
孤独というのも、うつの原因になるらしい。人間関係がストレスになる場合も多々あるのですが、人との関わり合いをなくすこともまた、原因となり得る。
最新の治療法の中には、人との信頼関係に注目したり、地域活動に参加するといったものもあるようです。ストレスにならないような人間関係が、人を癒してくれる。
人を傷つけるのも人間なら、人を回復させるのも人間というわけですね。
(γ) 規則正しい生活
脳の神経細胞を回復させるには、規則正しい生活がいいようです。
うつ状態の時は、動けません。あれこれ考え、余計に不安になってしまう。ネガティブな発想が出て来て、自己否定にもつながりやすい。
それよりは、体を適度に動かす方がいいわけですね。動くことで考えないですむし、やがて自信も出てくると。
<終りに>
ここに書いてきたようなことは、「単純に考えれば」というようなもの。したがって、実際はもっと複雑なんでしょう。ただ、「考えすぎて複雑にしてしまっている」ということもあります。シンプルに考えることで、現状を打破できることも、実は少なくありません。
うつの症状の多くは、「現状維持」が問題になっていたりします。つらいのにそのままだから、余計につらい。ということは、ちょっとした修正をするだけで、楽になることもあります。
この現状維持は、寒い寒いと嘆きながら、頑なに上着を着ることを拒否しているようなもの。上着を着たり、火に当たったり、家の中に入ったりと、ちょっとしたことで寒さを防げることがあんです。(すべてがそうだとは言いませんが)
このような問題は、人と人との間で生じています。よって、自分の態度や言動、考え方を直しただけでは、どうにもならない面も。相手がそのままである限り、つらいことは続くかもしれません。
しかし、同時に、自分に全く問題がないというのも、少なさそうです。なので、まずは自分を変えるというのにも、意味が出てくる。それで終わりということではありませんが、それが大事な始まりだったりします。
何はともあれ、「 Take good care of yourself 」。
自分自身をお大事に。
「第2回 うつ病とトラウマ EMDR治療」>>
ページの先頭に戻る